1. 背景と問題意識
1.1 研究の背景
大規模言語モデル(LLM)を基盤とする自律AIエージェントは、複雑な環境においてツールを使い分けながら意思決定を行う能力を持つ。しかし、道徳的ジレンマを含む動的ナラティブ環境において、エージェントがどのようなツール使用戦略を採用し、どのような道徳的推論パターンを示すかは十分に研究されていない。
従来の人生シミュレーション研究(本プロジェクトの先行実験)では、AIモード・人間モード・混合モードの比較や、LLMの不確実性閾値による委任行動の分析が行われてきた。しかし、エージェントが能動的に環境を調査し、戦略を立て、選択するという「ツール使用を伴う自律的意思決定」の詳細な行動分析は未着手であった。
さらに、動的シミュレーション(Godシステム)では、LLM「神」が主人公の行動に応じてシナリオを動的に生成するため、エージェントと環境の間に双方向的な適応・共進化が生じる。この相互作用パターンの解明は、Human-in-the-Loop(HITL)研究やAIアライメント研究にとって重要な知見をもたらし得る。
1.2 研究目的
本研究の目的は以下の点に集約される:
- ツール使用行動の分析: 自律AIエージェントがどのようなツール使用パターンを採用し、それが意思決定にどう影響するかを明らかにする
- 道徳的推論の発達過程の追跡: 8ステップの人生を通じたエージェントの目標・戦略・推論の変容を質的に分析する
- エージェント-神の共進化ダイナミクスの解明: トリックスター神の世界観変容とエージェントの行動選択の相互作用を明らかにする
1.3 関連研究との位置づけ
本研究は、本プロジェクトにおけるエージェント実験のフレームワーク上で実施された初期的な探索的ケーススタディである。バッチ実験(agent_sweep)によるパラメータ空間の系統的探索に先立ち、単一ランの詳細な質的分析を通じて仮説を生成することを目的とする。
AIの道徳的推論に関する先行研究(Constitutional AI, RLHF等)は主に訓練時のアライメントに焦点を当てているが、本研究はデプロイ時のin-context道徳的推論の動態を対象とする点で異なる。