この回のゴール
- 「AI」という言葉の意味を、歴史的背景から理解する
- 記号主義AI(ルールベース)と統計的AI(データから学習)の違いを掴む
- 現代の AI エージェントが「どちらの系譜か」を把握する
1. AI の定義: ひとことで言うと難しい
「人工知能 (AI)」には、実は 確立された唯一の定義はありません。代表的な立場を並べると:
| 立場 | 定義 |
|---|---|
| 人間のように考える | 人間の思考プロセスを模倣する機械 |
| 人間のように行動する | Turing テストに合格する機械(見分けがつかない) |
| 合理的に考える | 正しい推論を行う機械(論理学) |
| 合理的に行動する | 与えられた目標を達成するよう最適に動く機械(エージェント) |
👉 現代の AI エージェントは、4 番目の「合理的に行動する」 の系譜です。
参考: Russell & Norvig "Artificial Intelligence: A Modern Approach" の分類
2. 歴史の大きな 2 つの流れ
(a) 記号主義 AI (Symbolic AI / GOFAI)
- 期間: 1950 年代〜1980 年代が主流
- 考え方: 知識を 記号とルール で表現し、推論する
- 例: エキスパートシステム、PROLOG、if-then ルール
- 数式で言うと:
$$ \text{知識} = {\text{ルール}_1, \text{ルール}_2, \ldots}, \quad \text{結論} = \text{推論}(\text{知識}, \text{事実}) $$
強み: 動作が説明可能、ルールを人が書ける 弱み: ルールに無い状況に弱い、書き切れない
(b) 統計的 AI / 機械学習
- 期間: 1990 年代〜(2010 年代のディープラーニングで爆発的に普及)
- 考え方: データから 関数 を学習する
- 例: ニューラルネットワーク、サポートベクターマシン、LLM もここ
- 数式で言うと:
$$ f_\theta : X \to Y, \quad \theta^* = \arg\min_\theta \sum_{i} L(f_\theta(x_i), y_i) $$
つまり「入力 $x$ から出力 $y$ を出す関数 $f$ のパラメータ $\theta$ を、損失 $L$ が小さくなるように決める」。
強み: データさえあれば学習できる、未知の状況にも対応しやすい 弱み: 判断根拠が不透明、データに偏りがあると学習も偏る
3. 現代の AI エージェントの位置づけ
[記号主義] [統計的AI]
│ │
│ │
ルールベース 機械学習
エキスパートシステム │
▼
LLM
│
▼
ツール付きLLM
│
▼
AIエージェント ← 今ここを目指す
LLM ベースの AI エージェントは、統計的 AI の系譜 です。ただし「ツール呼び出し」「状態管理」の部分には記号主義的な考え方も入っています。
4. このシリーズでの扱い
| 章 | 登場する考え方 |
|---|---|
| 01 (本章) | 記号主義 vs 統計的の対比 |
| 02〜03 | 統計的 AI (確率分布、ニューラルネット) |
| 04〜06 | 統計的 AI + 記号主義的な制御構造 |
まとめ
- AI には唯一の定義はなく、「合理的に行動するエージェント」が現代の中心的な見方
- AI には 2 つの大きな流派があり、現代の LLM ベース AI エージェントは 統計的 AI の系譜
- ただし「ツール呼び出し」や「制御フロー」には記号主義的要素も入る (ハイブリッド)
この回の限界(次への動機)
| 問題 | 何が起きるか |
|---|---|
| ルールベース | 書いていない状況にまったく対応できない |
| 最近傍法 | 過去のデータのコピペしかできない。新しい文を生成することはできない |
👉 次回は「生成 AI」。「学習データに無い新しい出力を作る」ためには、単にコピペではなく 確率分布からのサンプリング という考え方が必要になります。
よくある質問
Q. LLM は記号主義じゃないの? 単語で考えてるし... A. LLM は単語を ベクトル として扱い、確率分布 を学習する統計的 AI です。ただし「ツール呼び出し」や「エージェントの制御フロー」には記号主義的な要素が入ります。ハイブリッド化が現代のトレンドです。
Q. 記号主義 AI はもう使われていないの? A. 単体では減りましたが、エキスパートシステム的な要素はビジネスルールエンジンなどで今も現役です。また、LLM + ルール の組み合わせ(ガードレール、コンプライアンスチェック)として復活しています。
参考文献
- Russell & Norvig, Artificial Intelligence: A Modern Approach (4th ed.)
- 日本の定番: 松尾豊『人工知能は人間を超えるか』