3. 結果

3.1 離散 GridWorld: 世界モデルが圧勝する

図1: 離散 GridWorld 5-way 性能比較。Dyna-Q (辞書) (青) は約 2.2 エピソードで収束し、Q-learning (赤、約 9.6 エピソード) を 4 倍以上上回る。

表 1: 離散 GridWorld の収束エピソード数 (報酬 ≥ 0.5 への到達)

エージェント 収束エピソード数 (平均 ± 標準偏差) サンプル効率比 (vs Q-learning)
Dyna-Q (辞書) 2.2 ± 1 4.4 倍
Neural Dyna-Q 8.4 ± 3 1.1 倍
Q-learning 9.6 ± 4 1.0 倍
Neural Dyna-DQN 11.0 ± 3 0.87 倍
DQN 17.0 ± 5 0.56 倍

辞書型の Dyna-Q は 観測した (s,a) を完全に丸暗記できるため、世界モデル誤差がゼロであり、想像経験を通じて Q 表を「ほぼノーリスクで」更新できる。一方、NN 系のエージェント (Neural Dyna-Q, DQN, Neural Dyna-DQN) は関数近似のため初期の不安定性が大きく、辞書版の優位性ほど劇的な差を見せない。

図2: 離散 GridWorld における「頭の中のシミュレーション」軌道。同一の開始位置から、辞書 / Neural Dyna-Q / Neural Dyna-DQN の世界モデルが描く想像軌道。3 つともゴールに到達する qualitatively 似た軌道を描く

3.2 CartPole: 連続デンス報酬では世界モデルの優位性は控えめ

図3: CartPole 性能比較。学習曲線 (panel ①) では DQN (橙) と Neural Dyna-DQN (緑) はほぼ重なる。最終性能 (panel ⑥) で +8% の改善

表 2: CartPole の主要結果 (3 シード, 200 エピソード)

指標 DQN Neural Dyna-DQN
最終 10 エピソード平均報酬 129.13 ± 12.48 139.40 ± 21.52
実環境ステップ数 (合計) 14,841 15,039
想像ステップ数 0 70,200
想像 / 実 比率 4.67×
報酬 ≥ 50 到達 ep 85 ep 74 (-11ep)
報酬 ≥ 100 到達 ep 129 ep 113 (-16ep)
報酬 ≥ 150 到達 ep 157 ep 159 (≈)

世界モデル付きの Neural Dyna-DQN は 学習中盤 (報酬 ≥ 100 到達) で最も大きな差をつけるが、最終的な収束水準では数 % の差しかない。これは離散 GridWorld の Dyna-Q が見せた "4 倍" の優位性と比べると著しく小さい。

3.3 MountainCar: スパース報酬で世界モデルが「解ける/解けない」を分ける

図4: MountainCar 性能比較。DQN (橙) は 300 エピソード走っても一度もゴールに到達しないが、Neural Dyna-DQN (緑) は終盤から学習を立ち上げる

表 3: MountainCar の主要結果 (3 シード, 300 エピソード)

指標 DQN Neural Dyna-DQN
最終 10 エピソード平均報酬 −200.00 ± 0.00 (失敗) −185.47 ± 20.55 (一部成功)
実環境ステップ数 (合計) 59,927 59,741
想像ステップ数 0 293,710
報酬 ≥ −195 到達 ep 260 ep 283
報酬 ≥ −190 到達 未達 ep 284

DQN は最終 10 エピソードで標準偏差 0.00 — つまり 3 シードすべてが完全に同じ −200.00 (一度もゴールに到達せず) で終了している。Neural Dyna-DQN も最初の 200 エピソードはほぼ同じだが、終盤の数十エピソードで突然学習が立ち上がる。これは離散 GridWorld の Dyna-Q が見せた 「世界モデルが探索の元を取りやすくする」効果の連続空間版である。

3.4 Pendulum: 連続行動 SAC でも改善は数 %

図5: Pendulum 性能比較。SAC (紫) と MBPO-Lite (青緑) はほぼ全期間で重なる。最終性能で +5% の改善

表 4: Pendulum の主要結果 (3 シード, 100 エピソード)

指標 SAC MBPO-Lite
最終 10 エピソード平均報酬 −219.36 ± 5.08 −208.76 ± 6.95
実環境ステップ数 (合計) 20,000 20,000
想像ステップ数 0 95,005
第 3 四分位平均報酬 (中盤) −206.36 −157.64
報酬 ≥ −800 到達 ep 19 ep 21
報酬 ≥ −400 到達 ep 26 ep 30
報酬 ≥ −250 到達 ep 30 ep 36

興味深いことに、早期のしきい値到達は SAC の方が早い。これは MBPO-Lite が世界モデルを学習する追加コストを早期に払う一方で、まだモデルが信頼できないため想像経験のノイズが Q 学習を阻害するためと考えられる。中盤 (q3 = 第 3 四分位) ではモデルが信頼できる精度に達し、想像経験が効くようになる: q3 平均報酬で SAC −206.36 vs MBPO-Lite −157.64 と大きく逆転する。

3.5 NN 世界モデルの 1 ステップ予測精度は極めて高い

図6: CartPole 1 ステップ予測 vs 実環境。状態次元 0 (カート位置) は時間とともにわずかにドリフトするのが見える

図7: MountainCar 1 ステップ予測 vs 実環境。位置と速度の周期的振動を完全に追従

図8: Pendulum 1 ステップ予測 vs 実環境。3 次元の状態すべてで実環境カーブと予測カーブが視認できないほど一致

これら 3 つの想像可視化図から明確に読み取れるのは、NN 世界モデルの 1 ステップ予測精度は CartPole の位置成分を除いてほぼ完全ということである。Pendulum と MountainCar では予測カーブと実環境カーブが視認上重なっており、MSE は事実上ゼロに近い。CartPole の状態次元 0 (カート位置) のみが時間とともにわずかにドリフトしており、これは「位置」が積分量であるため誤差が蓄積する性質を反映している。

つまり、世界モデルが連続デンス報酬タスクで大きな差を生まないのは「予測が下手だから」ではない。予測は十分に上手いが、ベースライン (DQN/SAC) も既に強いため、追加情報の限界効用が小さいのである。

3.6 結果のまとめ

  1. 離散 GridWorld: Dyna-Q (辞書) は Q-learning の 約 4.4 倍のサンプル効率で勝つ。
  2. CartPole (連続デンス): Neural Dyna-DQN は中盤で 11〜16 エピソード分早く到達するが、最終性能は +8% に留まる。
  3. MountainCar (連続スパース): DQN は完全に失敗 (3 シードすべて −200.00)、Neural Dyna-DQN だけが終盤に学習を立ち上げる。質的な差を生む。
  4. Pendulum (連続行動): 早期は SAC が早いが、中盤で MBPO-Lite が逆転し最終的に +5%
  5. 想像 / 実 比率: 全タスクで 4.7 〜 4.9 倍に揃っており、「想像の量」ではなく「想像の価値」がタスクで大きく違う。
  6. NN モデルの予測精度: Pendulum / MountainCar でほぼ完全、CartPole の位置成分のみわずかにドリフト。