3. 結果

3.1 A. Attention パターン

図1: 各層・各ヘッドの平均 Attention パターン

表1: 層別の平均 Attention Weight

ヘッド State→State State→Action Action→State Action→Action
1 1 0.592 0.408 0.691 0.309
1 2 0.542 0.458 0.809 0.191
1 3 0.674 0.326 0.847 0.153
1 4 0.635 0.365 0.763 0.237
2 1 0.821 0.179 0.687 0.313
2 2 0.191 0.809 0.830 0.170
2 3 0.646 0.354 0.577 0.423
2 4 0.652 0.348 0.754 0.246

層1 では全4ヘッドで Action→State の attention が強い(0.69~0.85)。これは、行動トークンが状態トークンの情報を積極的に読み取り、行動と状態の統合表現を構築していることを示唆する。

層2 ではヘッドごとの役割分化が顕著になる。Head 1 は State→State が 0.82 と高く自己参照的であり、Head 2 は State→Action が 0.81 と高く行動情報を状態トークンに取り込む役割を担っている。

図2: Attention 差分 — 壁際 vs 内側

壁際と内側の Attention 差分は全体的に小さく(±0.03程度)、Attention レベルでは壁の特別処理は顕著ではない。壁の処理はAttention パターンの変化ではなく、中間表現の値(ニューロン活性)レベルで行われていることが示唆される。

図3: 行動別 Attention パターン

3.2 B. 中間表現の幾何学

図4: PCA 可視化 — 入力段階

図5: PCA 可視化 — 層1出力

図6: PCA 可視化 — 層2出力(最終表現)

表2: PCA による空間構造の定量評価

PC1 説明率 PC2 説明率 隣接セル間距離 非隣接セル間距離 距離比 判定
入力 53.7% 46.3% 0.84 2.44 2.91 空間構造あり
層1 45.6% 38.1% 1.93 5.63 2.92 空間構造あり
層2 37.6% 33.5% 2.19 6.27 2.86 空間構造あり

全層で距離比が 2.86~2.92 と一貫して高く、グリッドの空間的トポロジーが中間表現に保存されていることが確認された。

注目すべき点として、層が深くなるにつれ分散が複数の主成分に分散し(PC1: 53.7% → 37.6%)、より多次元的で豊かな表現になっていることがわかる。これは、単純な座標情報に加えて、行動依存の遷移情報が表現に符号化されていることを反映している。

3.3 C. Linear Probing

図7: Linear Probe の結果

表3: Linear Probing の定量結果

情報 指標 入力段階 層1 層2
y座標 R2 1.0000 0.9998 0.9993
x座標 R2 1.0000 0.9999 0.9993
上壁接触 Acc 100% 100% 100%
下壁接触 Acc 100% 100% 100%
左壁接触 Acc 100% 100% 100%
右壁接触 Acc 100% 100% 100%
マンハッタン距離 R2 1.0000 0.9998 0.9995
次状態 y R2 0.8125 0.9979 0.9996
次状態 x R2 0.8125 0.9983 0.9991

最も重要な知見は次状態予測の層間変化である:

  • 入力段階: R2=0.81。状態と行動の情報はそれぞれ保持されているが、遷移関数の計算はまだ行われていない
  • 層1: R2≈0.998。1層の処理で遷移ルールの大部分が計算される
  • 層2: R2≈0.999。微調整が加わりほぼ完全な遷移予測が可能に

入力段階での R2=0.81 は、行動を無視して現在位置だけから次状態を線形予測した場合の理論的上限に近い値であり、行動情報の統合が Transformer 層の計算によって初めて達成されることを示している。

3.4 D. ニューロンレベルの分析

図8: 特化ニューロンの活性マップ(5x5グリッド)

図9: 全ニューロンの特化度分布

表4: 各壁に最も特化したニューロン

ニューロン 活性差
上壁 #37 +1.902
下壁 #2 -1.796
左壁 #1 -1.595
右壁 #56 -2.191

4つの壁それぞれに対して異なるニューロンが特化しており、壁の概念が分散的に表現されている。

表5: 方向特化ニューロン Top 5

ニューロン 選択性 最大応答方向 各方向の平均活性
#45 2.512 上=-1.43, 下=1.08, 左=-0.18, 右=-0.03
#7 1.939 上=-0.81, 下=-0.75, 左=-2.12, 右=-0.18
#57 1.505 上=1.33, 下=-0.18, 左=0.41, 右=0.59
#52 1.458 上=-0.85, 下=0.61, 左=-0.16, 右=-0.33
#43 1.403 上=-0.06, 下=-0.09, 左=0.82, 右=-0.59

ニューロン#45 は選択性 2.51 と最も高く、下方向の行動に強く応答する。ニューロン#7 は左方向で最も活性が低下し、相対的に右方向に特化している。4方向それぞれに対応するニューロンが存在する。

表6: ゴール距離ニューロン Top 5

ニューロン マンハッタン距離との相関
#35 -0.965
#54 +0.897
#21 -0.887
#12 +0.817
#49 +0.808

ニューロン#35 はマンハッタン距離との相関が -0.97 と極めて高く、ゴールに近いほど強く活性化する「ゴール近接ニューロン」として機能している。

3.5 E. 因果的介入

図10: ニューロン除去の因果的影響

表7: 次状態予測への因果的影響 Top 5

ニューロン 影響度 (MSE) 分析Dでの特化
#37 0.001982 上壁特化
#26 0.000865 -
#0 0.000560 壁際
#38 0.000518 -
#18 0.000430 -

ニューロン#37 が次状態予測と報酬予測の両方で最も重要であり、上壁に特化したニューロンであることから、壁の処理が遷移予測の要であることがわかる。

壁反射に対する因果分析(壁反射ケース20件)では、ニューロン#38(影響度 0.000545)が最も重要であった。ニューロン#38を除去した場合の壁反射予測の詳細:

位置 行動 真値 正常予測 除去後予測
(0,1) [0, 1] [0, 0.259] [0, 0.279]
(0,3) [0, 3] [0, 0.773] [0, 0.763]
(1,0) [1, 0] [0.234, 0] [0.215, 0]

除去による影響は存在するが比較的小さく、壁反射の処理が複数のニューロンに分散的に表現されていることを示唆する。

Activation Patching の結果:

パッチ対象 MSE変化
全トークンシャッフル 0.2349
state token のみ 0.2208
action token のみ 0.0097

state token のシャッフルは action token のシャッフルの 約22倍 の影響を与えており、層1→層2の情報伝達において状態情報が支配的な役割を果たしていることが明確に示された。

図11: 累積ニューロン除去と予測精度

表8: 累積除去実験

除去ニューロン数 真値との MSE 精度劣化倍率
0 0.000035 1.0x
1 0.001962 56x
2 0.000766 22x
4 0.001116 32x
8 0.001872 53x
16 0.005428 155x
32 0.024022 686x

上位1ニューロン(#37)の除去だけで MSE が 56倍に悪化し、半数(32個)を除去すると 686倍に達する。情報は全ニューロンに分散しているが、少数の重要ニューロンに集中する傾向がある。

3.6 結果のまとめ

  1. グリッドの空間構造がモデル内部に再現されている(PCA距離比 ~2.9、全層で一貫)
  2. 遷移ルールは Transformer 層で段階的に計算される(次状態 R2: 0.81 → 0.998 → 0.999)
  3. 壁・方向・ゴール距離に特化したニューロンが存在する(各壁に異なるニューロンが対応)
  4. 機能特化ニューロンは因果的に予測に寄与している(#37除去で MSE 56倍悪化)
  5. 状態情報は行動情報の22倍の重要度で層間伝達される(Activation Patching)